長い休日

とにかく書く。

GRAPEVINE『ALL THE LIGHT』レビュー、Alright ?

とにかく、傑作なので、ササッとレビュー、プラスかるく僕の音楽遍歴などなども?

 

1. 開花

まさかの田中氏のアカペラから。

しかも、作詞において主旋律は徹底してア音のみで構成するという、拘りっぷり。もはや韻とか云々の土俵では無い。

あと、アカペラの構成、コーラスの完成度含めて、男声ボーカルの極みとも言えるのでは無いかと。ここら辺は、今回プロデュースしているホッピー神山氏の手腕だろうか?

因みに、この曲を聴いた瞬間に思い出したのは、東京事変の『生きる』(『スポーツ』収録)。一番は、椎名林檎を中心とした、バンドメンバーでのアカペラで始まり、二番からバンドサウンドに変貌を遂げるのだが、次曲との流れはこの流れを想起させるには十分だった。(ついでに言うと、2曲続けて田中氏の作詞作曲である)

 

2. Alright

配信シングルとして去年公開されていた、リードトラック。今までの GRAPEVINE さを感じさせつつ、前作のリードトラック『Arma』とは違うホーンセクションが曲に彩りを加える。

ホーンセクションとか、全体的なファンキーさは、KIRINJI の『明日こそは / It's not over yet』(『愛をあるだけ、すべて』収録)を思い出させる。ただどちらもサウンドとしては “オトナ” なイメージだが、KIRINJI は “大人になってしまった” 焦燥感を感じさせるのに対し、どこと無く “大人になったったぜ” な洒脱さを演出するあたり、GRAPEVINE のロックンロールの余裕さを感じさせる。

 

3. 雪解け

ここでやっと、バンドのメインコンポーザー亀井氏作曲の楽曲が登場する。まあ、一曲目のところでも書いたが、個人的には、一曲目と二曲目はどこかメドレー感があるので、実質的には二曲目みたいな感じもしないでも無いけれど。

ただこの三曲目は、『Burning Tree』の『死番虫』の曲順と重なる。決して、開けた曲ではないけれど、確かなグルーヴを感じさせる、GRAPEVINE の魅力的なロックンロールの一面である。あと、突拍子のない打ち込みは『East of the sun』(『BABEL, BABEL』収録)だな。

それにしても、雪解けと、虹が印象的な詩が描かれてるわけだけど、どこかルーツを知ってるようで覚えてない気持ち悪さもきになる楽曲でもある。

なんだっけ?

 

4. ミチバシリ

亀井氏の楽曲のメインコンポーザーならば、もう一つの GRAPEVINE の作曲の魅力、セッション曲がようやくここで登場する。ただ基本的に「作曲 : GRAPEVINE」といつもは表記されるのに対し、今回は担当楽器一人ずつに対しての表記になっているのが、違いとして表されている。この曲の場合は、「作曲 : 田中和将・西川弘剛・亀井亨・ホッピー神山」と言う具合で、常連の、ベース金戸覚氏と、キーボード高野勲氏の名前がない。

まあ、歌詞カードを見れば分かるのだが、金戸覚氏は今回レコーディングにも参加して、一部ではセッション曲にも参加してるのだが、高野勲氏は今回は参加していないと言うのが、最近の作品との大きな違いになってると言える。(因みにキーボードはプロデューサーのホッピー神山氏が担当している。また、いつもの五人は初回限定版に付属しているライブDVDで補完できる。と言うよりも、アルバムの内容を受けてのライブDVDなのではないかとも。)

そんな、いつもと同じようで違うセッション曲は、なんとも掴みようのない怪曲。過去にも、それこそ『死番虫』やら『うわばみ』のような異物を語るロックンロールを歌ってきたわけだが、まあこういう曲で、なんでいつもこうイキイキとしているのかが分からない!

こう言う、百鬼夜行シリーズ(仮)のときの生命力、地味に魅力的。

 

5. Asteroids

意味は、(火星と木星の間にある)小惑星、らしい。最近、日本の衛星が到達したとかしてないとかの話があったような…

個人的に、宇宙を歌うバンドは BUMP OF CHICKEN なんだけど、基本的には “見つけたい / 見つけて欲しい” 欲求が根底にあって、それが当世風ロックンロール、ひいては当世風ポップソングの王道になっていると考えている。例えば、『orbital period』で描かれる世界観とかは顕著なのではないか。ちなみに同年発売された、ゆらゆら帝国の金字塔『空洞です』収録の『ひとりぼっちの人工衛星』も、役目を終えた人工衛星が人間に語りかける内容だった。あと、スガシカオの『宇宙』(『FANKAHOLiC』収録)もか。

とまあ、人間は宇宙の中の孤独に気づくと人恋しくなったり、誰かへの想いを思わず吐露したくなるものだが、田中氏の天邪鬼は、その宇宙での孤独を自由の一つとみている節がある。なんと言うか、突き放し方と言うか、物事の相対化のスケールがヤケに開いてて、「別に勝手に漂っといてもええやん 笑」みたいな詩を書く。

今回の『Asteroids』もそうだが、『流転』においてもその傾向が見られる。もっと言えばそれは人間への “醒めた視線” としてひとくくりにできるものかもしれない。

 

6. こぼれる

アルバム発売の一週間前にPVも公開された、弾き語り曲。とは言ってもクレジットでは、田中氏と西川氏の二人のギターが入っているとされているのと、一曲目よろしくの田中氏の多重コーラスがふんだんに施されているので、思い浮かべる弾き語りとは少し異なるかもしれない。

GRAPEVINE のこの手の弾き語り曲は得てしてアルバム中盤に入ってることが多い。例えば、アルバム『TWANGS』の『Twang』、『真昼のストレンジランド』の『Dry November』などがそれに当たる。

さて、話を少し戻して、この曲が実質二人のギターで演奏されていると書いたが、もしかするとこれ一発どりなのではないかと思う。それはラジオで今回のアルバムがテープで録音されたこと、そして多くの楽曲がパート毎に分けられず同じ部屋で録られていたという発言からの妄想なのではあるが、絶妙なギターの掛け合いや、終盤のノイズの混ざり具合がええんよなぁ。

まあ、とは言えコーラスの多重録音は確実なのでなんとも言えないのだけれど。

 

7. 弁天

『BABEL, BABEL』くらいから始まった、寓話を用いた言葉遊びの多い政治風刺が複雑に絡み合った楽曲。ただ、この曲はよく分からん。もしかすると頭でっかちなリベラルとか、フェミニストへの皮肉かと思ったけど、分からん。

楽曲自体も、今まで GRAPEVINE にはなかったようなメロディーライン。特に、サビの浮遊感は初めて聞いたとき結構驚いた。

これは GRAPEVINE 全体の楽曲に言えることなのだけれど、一聴するとどこがて聞いたことあるのだけれど、分解していくと結局何も分からないという不可解さ、もしくは不気味さが中毒性の一要因になってるのではないかと考える。

言って見れば一曲一曲が、ロックンロールという名を借りたスパイスカレー…みたいな?

 

8. God only knows

ふるくは『Tinydogs』、『Turd and swine』、そして『HESO』と続いてきたハードロック路線?の最新型。正直な話、GRAPEVINE のことだから、The Beach Boys の名曲を下敷きにした、ゆったりめの曲をイメージしてたから、本当に腰が抜けた。

歌詞の世界観も、前曲に引き続いて今の社会の風刺ソング。当世に蔓延しているSNSにおける個人的発信力(エッセー)への冷ややかな視線を、パスカルの「人は考える葦である」という名言と、ダーウィンの進化論を引用しながら嘲笑し、かつ “黒歴史” なんていうスラングを使いながら天賦人権論による近代民主主義を “God only knows” という言葉に集約させるという、意味のわからない作詞芸当を見せつける現代の詩人。たぶん、現代でココまでする人いないんじゃねぇか?(こちらは少し自信アリ)

ただ、『弁天』『God only knows』の2曲、ひいてはココまでの8曲は、ゆってみれば後の二曲の伏線、もしくは前提になる話であることを踏まえておかなければならない。ここで『すべてのありふれた光』への世界観の下地が整うのである。

 

9. Era

“時代” という意味の、タイトル。ただ、このアルバムの随所に見られるような寓話的な風刺や皮肉の効いた歌詞ではなく、あくまで亀井氏の美メロにのせた、田中氏の(ひいてはバンドの)述懐である。

GRAPEVINEは天邪鬼で、ファンへ向けての歌詞はとんと書いてなかった。それを解禁したのは、おそらく前作からで、『Arma』はもちろんのこと、個人的には『Chain』にもその傾向が強く見える。

ただ、別の見方をすると、ここに出てくる “きみ” との関係性は、このアルバムの『雪解け』や、次曲『すべてのありふれた光』と共通するのではないかと思う。そして、 “Era” = “時代” というタイトルは、この曲までの7曲でアリアリと書き表されている。つまり、この曲自体が、アルバム全体を一つにまとめる雁首なのではないかと思う。

そしてアルバムは、クライマックスへと静かに向かう。

 

10. すべてのありふれた光

かつて、『光について』という大名曲を打ち出したバンドの、新しい “光” の入った曲。

もう、とにかく聴いてくれ!というくらいの楽曲なのだが、先ほどの “今の時代” を描くにあたって、田中氏はいくつかの楽曲でそれを書き著していると考えている。勝手に「真昼の子供たち」シリーズと呼んでいるのだが、『真昼の子供たち』(『真昼のストレンジランド』収録)、『RAKUEN』(『MISOGI EP』収録)、『Big tree song』(『Burning tree』収録)、『SPF』(『BABEL, BABEL』収録)の四曲に続くのではないかと考える。

とは言っても、きちんと精査したわけでもないし、確立してるわけではないので見落としてる可能性もあるのだが、どこか明るくて、自分たちより下の世代(というか子供たち)を描く歌詞や、ポップ感のあるメロディラインなどが共通する。(PV見て、ちょっと確信)

まあ、そんな御託はさておいてともかくだ、“ありふれた” と “溢れた” の言葉のならべかたなどの詩の流麗さに感嘆すべきであろう。ここら辺の歌詞のこだわりは一曲目で示されている通りで、ただ舌を巻くばかりである。

 

とまあ、急ぎ足(笑)でレビューして見たわけだが、何が言いたいかというと、レンタルでもなんでもいいから一通り聴いてほしいだけである。因みにこのボリュームと質で42分という恐ろしく聴きやすいアルバムになってるのも素晴らしい。